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月刊タイムス2018年10月号 トーマス・カトウ

トランプ外交の尊大な野望

各国に難題を突き付け我が道を行く 

 

 

「アメリカ・ファースト」を掲げ、次々と難 癖をつけて世界各国を翻弄するトランプ米大 統領。一方で米朝首脳会談を実現させて華々 しい実績を誇示するなど、今やトランプ大統 領の一挙手一投足に注目が集まる。予測不能 と言われる同大統領だが、その裏にはしたた かな計算もあった。一体トランプ政権の目指 すものは何なのか。今回は、全米で著名な国 際コンサルタントとして活躍する日系アメリ カ人のトーマス・カトウ氏に、北朝鮮問題や 貿易問題について語ってもらった。 

                              トーマス・カトウ ●国際コンサルタント

                              聞き手 香村 啓文 ●本誌主幹

 

トランプの本心は北朝鮮への攻撃

 

香村

 今日は、アメリカの内部事 情に詳しい先生に、国際問題やト ランプ大統領の戦略について話を 伺いたいと思います。初めに6月12 日にシンガポールで開かれた米 朝首脳会談で合意した非核化交渉 が進んでいないことに対するアメリカの反応はどうでしょうか。

 

カトウ  

 だいぶ苛立っていますね。

 

香村  

 ポンぺオ(国務長官)とボ ルトン(補佐官)なんかが苛立っ ているわけですが、トランプのツ イッターは非常に楽観的な見方を しているようです。

 これはポンぺオ、ボルトンとトランプの間にお ける役割分担があるのでしょうか。

 

カトウ

 6月 12 日の首脳会談では、 メディアで報道された完全な非核 化、不可逆的な非核化、検証可能 の3点は、実現しなかった。まず 完全な非核化ですが、合意文書に トワード( Towards )という言葉 があります。意味は〝それに向け て〟という意味で す。ですから5年

先でも 10 年先でもいいのです。な ぜそうなったかということですが、 トランプは非常に金(正恩)委員 長をマクロ的に把握しており、実 りの無い会談になることは最初か ら予想していた。一方、金委員長 の方には非核化に応ずることは出 来ない事情がある。それが非核化 に〝向けて〟という言葉に現れて いる。その結果は、結局は戦争に なるしかない。それは既に少数の 人が言ってきたこと です。

 では、なぜトラン プがシンガポールま で行ったか、という と、あれはトランプの演出だから です。トランプの野心の一つには ノーベル賞がある。トランプは平 和に向けて努力したと見せる必要 があった。

 トランプ自身は、これまでの考 え方を曲げずに北朝鮮攻撃をする 前提です。合意文書の内容はどち らでもいい。

 北朝鮮攻撃については、ボルト ンは最初から言ってきた。攻撃する法律上の根拠は、国連憲章の 51 条の自衛権です。正当防衛が成り 立つと安保理の決議は必要ない。

51 条の正当防衛が成り立つ条件と しては、北朝鮮がアメリカを今に も攻撃するという状態になってい ることが必要だ。ボルトンはなっ ていると見ている。他の人はまだ そこまではいっていないのではな いかと考え、そこに違いがある。

 そしてトランプは今、ボルトン の考えに従って動こうとしている。

 

香村

 先生の著書にも書かれてい たと思うのですが、トランプの政 治的な師匠は、ヘンリー・キッシ ンジャーだという。キッシンジャ ーからトランプは、アドバイスを 受けているのでしょうか。

 

カトウ  

 受けていると思います。 香村   すると、キッシンジャーが、 中国にも影響のある北朝鮮攻撃を 認めるはずがないと思われますが。 カトウ   そこが、必ずしもそうじ ゃないのです。キッシンジャーの 原則も、中国問題以外では、やは り力による平和です。次の問題と して、ご指摘のあった北朝鮮攻撃 に対して中国はどう出てくるか、 という懸念が出てくる。

 そこでトランプ政権としては、 中国が強度な反応を示さないよう にして、北朝鮮攻撃をやることを 狙っている。中国との間には、貿 易問題をはじめ、いろんな問題が 絡んでくる。トランプは、中国が 北朝鮮攻撃に反対することは承知 している。安保理決議にかけても 中国、ロシアが反対することは分 かっている。トランプの実際の狙 いは北朝鮮の完全破壊ではなく、 アメリカ国民を納得する程度に力 の行使をすることです。トランプ の懸念は核兵器よりもICBMで す。核兵器よりも、その核兵器の 運搬手段であるICBMがアメリ カ本土に向けられている事態です。

 去年の7月4日のアメリカ独立 記念日に、北朝鮮が西岸の亀城 (クソン)付近から弾道ミサイル を東方に向けて発射し、約900 キロメートル飛んで到達高度は2 500キロメートルを超えた。初 の大陸間弾道ミサイル(ICBM) 「火星 14 」の発射実験でした。あ れがアメリカ国民に大きなショッ クを与えた。冷戦時代の相互抑止 が北朝鮮の独裁者には通用しない と思われた。

 

香村

 トランプの念頭に北朝鮮を 軍事的に破壊する考えがあるとす れば、米朝首脳会談における合意 事項の北朝鮮の体制保障はどうな るのでしょうか。最初から金正恩 体制の保証は実行しない考えだっ たのですか。

 

カトウ  

 それに近い考えですね。 中国が北朝鮮の体制を支えるとい うのは最初から分かっている。先 日もロイターが北朝鮮国内のガソ リン価格が半額になっていると報 道した。中国が国境のパイプライ ンを通じて送っている、今でもパ イプラインを監視する手段はなく、 中国の自主申告です。トランプが

攻撃すれば、中国が北朝鮮のイン フラを復旧支援することは明白で す。

 それに中国にはロシアとの関係 もある。ロシアと中国との関係は 基本的に対立です。旧ソビエト時 代から中国国境のソ連軍は、対N ATOよりも多かった。表向きは 上海協力機構(中華人民共和国・ ロシア・カザフスタン・キルギス ・タジキスタン・ウズベキスタン ・インド・パキスタンの8か国に よる多国間協力組織、もしくは国 家連合)がありますが、実際には 中国、ロシアは潜在的に緊張関係 にある。

 

【朝鮮半島の統一はロシアも了解?】

 

 香村

 中ロは、対アメリカでは協 力するのではないのですか。

 

カトウ  

 いや、既にロシア―トラ ンプ間では、朝鮮半島の統一が了 解されている。その目的は、対中 国政策です。朝鮮半島に統一政府 が出来れば、アメリカやロシアが 投資する。トランプ大統領とウラ ジミール・プーチン大統領がフィ ンランドの首都ヘルシンキで会談 したが、そこで統一朝鮮について話し合われた。メディアには、殆 ど報道されなかったですが。

 

香村  

 今のお話の、トランプに北 朝鮮を攻撃し、その後に南北統一 を進める意図があるとすれば、南 北和解を進めている文在寅大統領 にとっては反対せざるを得ないの ではないでしょうか。

 

カトウ  

 その通りです。

 

香村  

 すると、文在寅及び韓国政 府の意向は無視されるのでしょうか。

 

カトウ

 文大統領は、大統領選挙 の時から対北朝鮮融和政策を採る が、ただし制裁決議があれば参加 すると言ってきた。米韓条約では、 在韓米軍の出動には韓国大統領の 承認が必要です。そこが在日米軍 との大きな違いです。だから韓国 大統領の承認なしには在韓米軍は 動かせない。そこでトランプは、 在韓米軍を使わない攻撃を想定し ている。具体的には、韓国領土以 外の地点・空点から巡航ミサイル ・トマホーク使う軍事作戦です。 私は、いろんな情報を収集した結果、ほぼ確信しています。

 

香村  

 なるほど。その場合、集団 的自衛権に基づいて日本から自衛 隊の出動はあり得るのでしょうか。

 

カトウ  

 日米安保条約には極東の 不安を解消する為に日本が基地を 提供する、とある。日本の基地か ら離陸して、あるいは横須賀の第 七艦隊から攻撃することは、安保 条約上は可能です。

 しかし、先ほど言われた集団自 衛権に基づき米軍と一緒に自衛隊 が出動する事が可能か、というと 大きな政治上の問題が絡んでくる。 やはり中国は、そうした事態を望 んでいない。それ故、安倍総理は 自衛隊を米軍と一緒に出動させる ことは出来ないと思います。せい ぜいイラク戦争の時のようにアメ リカ海軍に燃料を補給する程度で しょう。恐らく日本国民の中には 拉致問題もあり、北朝鮮への報復 を望む人もいるだろうが、そうす ると中国を刺激することになる。 ですから私は最終的に日本の自衛 隊が参加せずに米軍が軍事行動を 起こすと思います。一方、オース トラリア政府は、米軍が動くのな ら自分たちも参加すると言っている。

 

香村

 ほう、そうなんですか。

 

カトウ

 安倍総理としては、非常 に苦しい立場です。日本の場合、 これまで拉致問題が発覚しても何 もして来なかった過去がある。日 本の政治家にとって怖いのは中国 なんです。つい2、3日前の新聞 にも、安倍総理が靖国参拝をやめた記事が載っています。要するに 日本の政治家には中国に遠慮する 癖がついている。

 

香村  

 年内に安倍総理が訪中する、 あるいは習近平国家主席が訪日す る動きが伝えられますが、北朝鮮 問題とも関係していると思われま すが。

 

カトウ  

 その通りだと思います。

 

拉致問題にトランプは関心なしか】

 

香村

 拉致問題が出てきましたが、 安倍総理が米朝会談の前に、トラ ンプ大統領に対して拉致問題につ いて金正恩にしっかり言ってくれ と依頼し、トランプが「金正恩に 伝えた」ということになっていま すが、トランプは日本人拉致問題 について真剣に考えてくれている のでしょうか。

 

カトウ  

 全く考えていないと思い ます。アメリカ軍兵士の遺骨にし ても、北朝鮮の思いのままになっ ている。箱を開けたら認識票が入 っていただけとか、アメリカ国内 でも問題になっている。日本人拉 致の解決は日本政府の仕事なので す。

 

香村  

 ではトランプの圧力外交をアメリカの世論は支持しているの でしょうか。

 

カトウ  

 支持しています。私の調 査では、貿易問題も、強面外交も、トランプの支持率は確実に 50 %を 超えています。

 

香村  

 トランプ大統領は中国に対 する貿易戦争や、イランに対する 制裁の再開など、強硬な外交姿勢 を貫いています。トランプとして は、圧力をかけることで、相手側 から譲歩を引き出すディール外交 を展開しているようですが、この ディール外交は成功していると言 えるのでしょうか。

 

カトウ  

 ええ、成功しています。 いまディール外交と言われました が、これは本来は普通の事をやっているだけなのです。例えば貿易 戦争ですが、これは商務長官のウ ィルバー・ロスも言うように第二 次大戦直後から始まっているので す。トランプが大統領になると急 に貿易戦争と言うようになったと 言われています。今話題になって いる通商拡大法の232条文(国 防条項)も、1962年にケネディ大統領が作った法律です。とこ ろが、トランプ大統領が始めたよ うに報道されている。

 

香村  

 トランプ大統領のパフォー マンスや、先生の本に書かれたトランプの妥協をしない「限界人間」 性が、一般のトランプ大統領のイ メージを形作っているのでしょう か。

 

カトウ  

 そうですね。一番大きな 理由は選挙です。今までにないよ うなトランプのパフォーマンスです。トランプ大統領の話を聞いて 凄いと思う人が多い。彼はビジネ スマンですからね。破産も経験す るなど、波乱に満ちた人生です。 その経験から庶民に何を訴えれば、 彼らが納得し、熱狂するか、よく 心得ている。

 

【世界の警察官やめ各国に負担要求】

 

香村

 テレビの司会もやった人で すからね。ところで、トランプ大 統領の政治理念は、パックス・ア メリカーナからの撤退とアメリカ ン・ファースト、グレート・アメ リカンを作るという三つの柱とい うことでしょうか。

 

カトウ 

 そうです。庶民が一番聞 きたいのは、最後のグレート・ア メリカンの再現です。これには反 対意見もある。今だってグレート ・アメリカンじゃないか、という 人もたくさんいる。トランプ大統 領は、今はグレートかも知れない が、本来はもっとグレートになれ たはずだ、と理由づける。2番目 のアメリカン・ファーストによっ てグレート・アメリカンを構築す ることになっている。そして、パ ックス・アメリカーナが一番の癌であったというのです。

 パックス・アメリカーナの原点 は1944年のブレトンウッズ協 定です。アメリカドルを基軸通貨 にする。アメリカが世界の警察官 になる。この2つが決められた。 ルーズベルト、トルーマンからオ バマ大統領まで、パックス・アメ リカーナの中でアメリカのポリシ ー(政策)が決められてきた。ト ランプ大統領は、パックス・アメ リカーナによってアメリカが被害 を受けてきたと主張してきた。一 つは朝鮮戦争、ベトナム戦争など によってアメリカ兵の生命が奪わ れてきた。他の国がアメリカの富 を盗んでいるという言い方もして いる。

 

香村  

 グレート・アメリカンにす るということですが、既に軍事的には非常にグレートだと思います。 ただ経済では貿易赤字が増えてい る。そこで白人の労働者層や低所 得層がトランプを支持して彼を大 統領にしたということですね。

 

カトウ  

 そうです。

 

香村  

 このパックス・アメリカー ナからの撤退という事になります と、アメリカは世界の警察官にな らない、とトランプ大統領は言っているわけですね。

 

カトウ  

 その通りです。

 

香村  

 そうすると、防衛は各国で やれ、ということですね。大統領 就任直後に在日米軍も縮小する、 日本が軍事費を負担せよ、という 事を言っていました。

 

カトウ  

 そうです。

 

香村  

 トランプ大統領は、この方 針を世界的に普遍化する考えでし ょうか。

 

カトウ  

 その通りです。私の本 「ドナルド・トランプ物語」の中 の〈パックス・アメリカーナから の訣別〉にも書いてある通り、ド イツのメルケルに対してアメリカ 軍の防衛負担をトランプ流に計算 して 42 兆円(3760億ドル)の 請求書を突き付けた事実がある。

 日本との関係では、4千億円程度 の思いやり予算(在日米軍駐留経 費負担)では、トランプは満足で きないということです。

 

香村  

 EU諸国に対しても、トラ ンプは、GDP2%の防衛予算を 求めています。

 

カトウ  

 トランプより前の大統領 もEUに対して防衛負担を求めて いましたが、従わない国が多い。 一番防衛予算が少ないドイツが1 ・2%です。日本は1%足らずで す。アメリカが3・2%。フラン ス、イギリスは一応2%。アメリカは、イラク、アフガニ スタンで戦争して多額の軍事費も 使っている。オバマ大統領もシリ ア内戦に関する演説で、「米国は 世界の警察官ではないとの考えに 同意する」と宣言している。

 

香村  

 なるほどね。結局、アメリ カは軍事面で撤退しようとしてい るわけですけど、反面シリア・イ ランの問題でも紛争地域に介入し ようとしている。北朝鮮の問題も 正にそうです。これはアメリカと して、世界における指導的立場を 守りたいからでしょうか。

 

カトウ  

 シリアやリビアのような中東は、石油資源のある地域への 関心です。アメリカ国内のシェー ル・ガスも地盤沈下や環境破壊な ど今でも反対が大きい。エネルギ ー資源の確保はアメリカの安全保障に関わる問題です。

 

香村  

 一種の資源戦争みたいな感 じですか。

 

カトウ  

 資源戦争が今でも続いて いるということですね。

 

【二国間協定でアメリカの我を通す】

 

香村

 中国に対する関税戦争がエ スカレートしています。見方によ れば、トランプは圧力をかけてい ますが、ちょっとやりすぎじゃな いか、と見る識者もいます。対中 貿易戦争をトランプは成算性があ ると思ってやっているのでしょう か。

 

カトウ  

 トランプとしては、二国 間協定(FTA)の準備の為の貿 易戦争です。まとまれば高関税は 引っ込めるが、交渉が決裂すれば 実施するつもりです。

 

香村  

 いまトランプ大統領が強気 なのは、アメリカ経済が堅調の一 方、中国経済が不安定になってい るからですね。

 

カトウ  

 その通りです。

 

香村  

 TPPの問題でも、明日あ たり茂木敏充経済再生相と米通商 代表部(USTR)のライトハイ ザー代表の会合が開かれ、そこでFTA交渉を要求してくるようで すが、日本側はTPPに則さない 交渉には応じられないと主張する と思われます。アメリカがTPP に参加出来ない理由はどこにある のですか。

 

カトウ  

 TPP原産地ルールは 45 %です。つまり、日本からアメリ カに輸出する製品の 55 %は中国製 であってもいいわけです。そこが ネックになっている。また金融や 知的財産についてもトランプ大統 領はTPPに納得していない。ち なみにカナダ、メキシコとの間の 北米自由貿易協定(NAFTA) では、原産地ルールは 62 ・5%で す。トランプ大統領は、NAFT Aにもこれを 70 %にするように要 求しています。一方、トランプ大 統領は、こうすればTPPに入る かもしれないということを時々言 ったりする。 

 

香村

 この間のダボス会議ですね。 私も入る意思があるのだろうか、 と思いました。

 

カトウ  

 あれはトランプ大統領の ジョークですね。

 

香村  

 アメリカとしては二国間協 議の方がやり易いということです か。

 

カトウ  

 そうです。

 

香村  

 トランプは、イージス・ア ショアといった軍事装備費の購入 を日本政府に要求します。トラン プは対日貿易赤字削減に貢献して いるのでしょうか。

 

カトウ  

 その通りです。

 

香村  

 最後に伺いたいのは、トラ ンプ大統領は力の外交を展開して いますが、ベトナム戦争の時のよ うな反戦運動が起きる可能性があ るのではないですか。

 

カトウ  

 今のアメリカの政治情勢 は、反戦運動が起こる要素は小さ い。また議会も共和党が抑えてい る。トランプがアメリカ国内の反 戦運動によってその外交方針を変 えるとは考えにくい。

 

香村  

 今日はありがとうございま した。

(8月9日会見   文責  高 橋寛・本誌編集委員)