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月刊タイムス2018年10月号 内田雅敏

 

 

従来の改憲論の系譜からも逸脱

安倍改憲の異形な目論見

立憲主義を否定する集団的自衛権の行使容認       

                                       内田雅敏 弁護士

 

逸脱した「立ち枯れ作戦」

 敗戦後 73 年、憲法施行 71 年 の夏、安倍首相は次期国会に 改憲案を提起すると言う。現行憲法はそのまま維持した上 で、自衛隊明記、すなわち、 9条の2として、「前条の規 定は、我が国の独立と平和を 守り、国及び国民の安全を保 つために、必要な措置を取る ことを妨げず、そのために必 要な実力組織として、法律の 定めるところにより、内閣の 首長たる内閣総理大臣を最高 の指揮監督者とする自衛隊を 保持する」といった条項を設 けようとするもののようであ る。この改憲案について安倍 首相は、これは、日夜国民の 安全のために働いている自衛 隊員に誇りを持ってもらうた めのものであり、この改憲に よって何か新たな事態になる わけでなく、これまでと全く 変わりないと声高に語る。

 

 全く変わらないならば、852億円(総務省の試算)も の多額の国費を費やして「改 憲」するという意味がないで

はないかという批判がある。 全くその通りであるが、本稿 はそのことについて述べよう とするものではない。本稿で 述べようとするのは、何が何 でも改憲したいという安倍首 相の目論む「立ち枯れ作戦」 というこれまでの改憲論の系 譜から逸脱した異形な改憲論 についてである。

米への従属関係を重視か

 

 改憲論の系譜はこれまで様 々ある。しかしその中でも 「主流」ともいうべき改憲案 は、現行憲法の、前文の削 除もしくは訂正、天皇の元 首化、第9条の戦争放棄条 項について、2項(戦力の不 保持、交戦権の否認)の削除 である。

 

 前文の削除もしくは訂正と は、敗戦後の我が国の出発点 となった、(イ)「政府の行為 によって再び戦争の惨禍が起 こることのないようにするこ とを決意し」という先の戦争 に対する反省、及び(ロ)「平 和を愛する諸国民の公正と信 義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意し た」の削除である。

 2012 年に纏められた自民党の改憲 案も同様な趣旨であった。 (イ)を削除しようとする見 解は、先の戦争は、自衛戦争 であって侵略戦争ではなかっ たとする歴史観に依拠するも のである。本稿は、この点に ついて論じようとするもので はない。ただ、このような歴 史観は世界で全く通用せず、 日本国内の一部に於いてのみ 語られるナルシスト史観とで も呼ぶべきものであることだ けを述べておく。(ロ)につ いて、改憲論者は、これを他 力本願の恥ずかしい条項であ ると揶揄する。「平和を愛す る諸国民の公正と信義に信頼 して」とは、具体的には国連 を意識したものであり、これ を否定することは国連中心主 義から米国などとの二国間関 係(実質は従属関係)を重視 しようとする見解である。な お前記文言が「平和を愛する 諸国家」でなく「諸国民」と しているのに留意すべきである。

 国同士はどうであれ、国家や、メデイアが、排外主義 を煽らない限り、民衆同士は 戦争を求めない。そのことは、 外国人旅行者の多さを見れば わかる。

 

自衛権発動の前提を崩す

 前述したように、安部首相 による今回の改憲案は、現行 憲法の前文及び9条を維持し たうえで9条の2を付け加え ることによって、前文及び9 条2項(戦力の不保持、交戦 権の否認)の立ち枯れ(宮崎 礼壹元内閣法制局長官)、死 文化を狙い、実質的に、前文 及び9条2項の削除論と同じ 結果をもたらそうとするもの である。

 

 なぜ、このような従来の改 憲論の系譜から外れた異形な 改憲が可能なのか。その答え は2014年7月1日の集団 的自衛権行使容認の閣議決定、 及びそれを受け、翌2015 年9月 19 日未明、強行採決さ れた安保関連法にある。安倍 政権は、この閣議決定と強行 採決により、日本の防衛政策 の根幹をなしていた専守防衛日本に対する攻撃があった 場合に初めて自衛隊の発動が ある)から、歴代の政権が、 憲法上許されないとしてきた 集団的自衛権行使容認へと、 この国の安全保障政策の根幹 を変えてしまった。

  

①日本と密接な関係を有す る他国に対する攻撃があり、 ②そのことにより、我が国の 存立が危うくなり、③国民の 生命、自由、及び幸福追求に 対する権利が根底から覆され る明白な危険がある場合とい う、いわゆる「存立危機事態」 の発生という縛り(実際には 縛りとなり得ない)はあるも のの、これまでの自衛権発動 の大前提であった日本に対す

る攻撃がない場合でも、自衛 隊の活動が可能となった。こ れは実質的には憲法9条の改 変に他ならない。

 

米国も満足した憲法解釈

 前記集団的自衛権行使容認 の閣議決定、安保関連法の強 行採決が憲法9条の改変であ ることは安倍首相自身も認識 しているところである。

 

2016年8月 31 日、安倍 首相が、ジャーナリストの田 原総一郎と面談した際、田原 から「いよいよ憲法改正です ね」と水を向けられ、安倍首 相が、「大きな声では言えま せんが、改憲する必要はなく なったんです」と答え、日本 が「集団的自衛権を行使出来 ないから日米同盟がうまくい かない」と米国が不満を示し ていたが、2015年9月 18 日集団的自衛権を行使容認す る安保関連法が成立したこと によって「米国は何も言わな くなった。満足したのだ」と 解説したという(2017年10 月 12 日付け毎日新聞)。

 2001年 10 月の、いわゆるアーミテージリポート以降、 米国は、たびたび、日本政府 に対し、集団的自衛権行使不 可の防衛政策を変更し、ブッ シュ政権の国務副長官を務め たリチャード・アーミテージ は、2018年4月 24 日朝日 新聞のインタビューに対し以 下のように満足げに語る。

 

 安倍政権は集団的自衛権 行使をめぐる憲法解釈を変更 し、新たな安全保障法制も整 備しました。 「以前は日本と作戦計画や演 習について議論すると『憲法 9条があり、自衛隊は制約を 受けている』と頻繁に聞かさ れた。(法整備した) 15 年以降、 そのような発言は聞こえてこ なくなった。集団的自衛権行 使の禁止を我々は『同盟協力 の妨げや障害だ』と指摘はし たが、どうするかは日本の判 断だと言ってきた」 「日本の対応は大きな一歩だ と評価している。ただ完全で はない。私は日本が敵基地攻 撃能力を保有するのに賛成 だ」

 専守防衛の日本は『盾』 の役割で、米国が『矛』を提 供するとされてきました。 「私は安保条約改定が好まし いとは思わない。条約改定論 が出てくれば、米議会や日本 の国会で厄介なことが起きか ねない。日本が矛を持つこと を懸念する米専門家はいるが、 私は賛成。そうすれ日米で二 本の矛を持つことになる。周 囲には中国や北朝鮮など競争 相手が存在している」

 米国は、日本が集団的自衛 権行使容認をし、米国から多 額な武器を購入し自衛隊が米軍と一体となって活動するこ とが出来るようになれば、明 文改憲なくともそれで満足な のである。

 自衛隊明記の安倍改憲は、 これまで明文の根拠規定がな く、それゆえに装備、活動に 於いて抑制的(敵基地攻撃能 力は持たない、個別的自衛権 に限る)であった自衛隊の存在に明文の根拠を与えるだけでなく、自衛隊を諸外国に見 られると同様な「普通の軍隊」 とするものであり、その装備、活動は全て法律によって決め ることが出来、憲法上の制約 が無くなる。

 

安倍改憲は憲法破壊行為

 2000年 11 月 30 日、衆議 院憲法調査会での参考人石原 慎太郎都知事(当時)の「(占 領下で作られた憲法は無効 だ)憲法改正の必要はない。 国会の多数決で憲法廃止決議 をすればいい」という発言を した。国会にはそのようなこ とをする権限はない。石原発 言は、国会の多数派に憲法破 壊のクーデターを教唆するも のであった。

 2014年7月1日の安倍 内閣の閣議決定による集団的 自衛権の行使容認は、内閣法 制局長官の首をすげ替えると いう禁じ手を使って行った、 憲法破壊行為であり、立憲主 義の否定であった。安倍首相 は前記石原発言以上の暴挙を 行い、今また「立ち枯れ作戦」 という、従来の改憲論の系譜 から逸脱した異形な改憲によ って憲法の明文破壊を為そう としている。