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月刊タイムス2018年11月号 安積明子

日本の破綻を見届ける首相になるか

安倍政権を待ち受ける茨の道

歴代最長の在任期間も視野に入ったが得意の外交では米韓の後塵を拝す

 

●ジャーナリスト

安積 明子

 

9月 20 日の自民党総裁選は、553 票を獲得した安倍晋三首相が254票 の石破茂元幹事長をダブルスコアで下 して勝利した。議員票 73 票と党員地方 票の 45 %を獲得した石破氏を各メディ アは一斉に「善戦した」と報じたが、 果たしてそれは「善戦」と言えるのか。 

 

 

【安倍「批判票」が石破側に】

 石破氏は2012年の総裁選で は議員票 34 票と党員地方票165 票の計199票を獲得したが、第 一回目の投票で過半数に達せず、 決選投票で108票対 89 票で安倍 首相に敗北した。この時の総裁選 では、安倍首相と石破氏の他、故 ・町村信孝元内閣官房長官、石原 伸晃元国交相、林芳正文科相の5 人が出馬したが、今回もし安倍・ 石破の一騎打ちで議員票がこの時

の決戦投票のよ うに分かれたな ら、石破氏が勝 利していたかも しれない。

 このように2 012年の総裁 選には、最後ま で勝負の結果がわからないという 雰囲気があった。

 そして今回の総裁選では安倍・ 石破の一騎打ちとなったが、特徴 的なのは「戦後処理」がうまくい っていないことだ。麻生太郎財務 相兼副総理は「我々の時も冷や飯 を食わされた」として、福田康夫 元首相と一騎打ちとなった200 7年の総裁選を引き合いにして、 「冷や飯にも食い方がある」と述 べたが、福田・麻生と安倍・石破 ではそもそも闘いの背景が異なる

ので、同列に考えるのは不適切だ ろう。それよりも自民党にとって 石破氏はいったん離党した「出戻 り組」であるという事実が災いし ているのではないか。「出戻り」 には厳しいという自民党の体質が、 今回の「戦後処理」をいっそう難 しくさせているようにしか思えな い。

 しかも麻生氏と石破氏では、政 治家としてのタイプが異なる。麻 生氏は河野洋平元官房長官から受 け継いだ大勇会を 59 名を擁する志 公会まで発展させた。志公会は自 民党内で第2番目に大きな派閥だ。

 一方、石破氏が率いる水月会は 本人を含めて 20 名の小所帯。メン バーには餅代や氷代も配られない と聞く。領袖が人事や資金で面倒 をみる自民党の伝統的な派閥とい うよりも、政策集団という性格が

強い。

 それなのに石破 氏は議員票を 73 票 も獲得した。もっ とも石破氏には、 参議院竹下派や衆 議院竹下派の一部、 そして中谷元元防 衛相などが賛同していた。

 それらを含めて多くのメディア が事前に石破氏が獲得すると予想 したのは 50 票前後。だがそれに積 み上げられた「批判票」こそ、重 要だといえる。

 選挙では共産党に投じる人が一 定数いる。別に共産党を支持して いるわけではないが、当選の可能 性のある他の候補に投じる気持ち にならないためだ。ただ不満の意 思を示したいという動機でもって、 共産党に1票を投じる。そうした 票が積み上がったといえるのが2 016年の参議院選だった。この 時、共産党は比例区で601万票 を獲得し、参議院選で比例代表区 が導入された1983年以来、2 番目に多い得票数・率となった。

 だが実際の共産党の党勢は芳し くない。高齢化により党員数が減少しているし、機関紙である赤旗 の購読数も同じだ。要するに、投 じられているのが「何がなんでも 共産党」というような共産党への 期待票ではなく、「他の政党に入 れたくないから共産党」という消 極的な選択票ということになる。 しかもそうした票は、共産党政権 の誕生をまず望んではいない。

 石破氏が獲得した議員票 73 票の うち、予想された 50 票を上回る約20 票も、これと同じ性格のものだ ろう。

 自民党総裁選の結果は初めから 見えていた。安倍首相に1票を投 じて勝馬に乗るという選択肢もあ るだろうが、安倍首相をあまり勝たせてしまうのもしゃくに触ると いう人たちが、石破氏に投票した と推定される。留意すべきは、必 ずしも「石破総裁」の実現を望ん で投じられた票とは限らないこと だ。そしてこういう声なき批判の 声こそ、安倍政権にとってもっと も警戒すべきものであるはずだ。

 

 つづく