月刊タイムス2018年12月号 カショギ氏の秘められた家系 井上和博  

なぜサウジの王族に楯突いたのか

カショギ氏の秘められた家系

カショギ氏とトランプ大統領を結ぶ豪華ヨットの秘密

 のではないかという説を流した。

  ●フォト・ジャーナリスト 

                                     井上 和博

 

 10月2日、サウジアラビア人ジャーナリストのジャマル・ アファマド・カショギ氏が、トルコ・イスタンブールのサウ ジアラビア総領事館に入ったまま行方を絶った。欧米のメデ ィアは、政権批判の記事を書きまくっていた彼は、現在の政 府を牛耳るムハンマド・ビン・サルマン皇太子の怒りを買っ たために、その指示で暗殺された のではないかという説を流した。 

 

トランプのヨットで接点

 総領事館に拘束された彼は、生 きたまま身体を切断されたという 恐ろしい噂もメディアを賑わせた。

10 月 20 日、サウジアラビア政府も 同氏が総領事館内で死亡したこと を認めざるを得なかった。

 海外の首脳やメディアはこぞっ てサウジ政府を批判した。「反骨 のジャーナリストを暗殺するサウ ジ政府はけしからん」という論調 だった。だが、私はその論調にい ささかの違和感を覚えざるを得な かった。「カショギ」という名前にピンとくるものがあったからだ。

 話は 30 年前に遡る。1988年 7月4日、私はハドソン川の河口 にあるニューヨーク湾に浮かぶ豪 華ヨットの甲板にいた。そこから はマンハッタンの高層ビル街(世 界貿易センタービルも健在だっ た)や自由の女神像といった、ア メリカを象徴するランドマークが よく見えた。

 全長 85 メートルのそのヨットは 「トランプ・プリンセス号」と名 付けられ、まるで豪華客船のよう である。ヨットの持ち主はドナル ド・トランプその人で、ホテル王

として破竹の勢いを続けていた実 業家として、その名を世界に轟か せ始めていた。

 その年の6月 10 日、アトランテ ィック・シティのカジノホテルで、 ジャネット・ジャクソンらスター 芸能人をゲストに迎え、盛大な誕 生パーティーを開催していた。そ の数日後、取材に訪れたジャーナ リストをトランプはニューヨーク 湾のクルージングに招待したのだ。

 ヨットでの彼は、チェコスロバ キア出身のイヴァナ夫人にぴった りと寄り添い愛妻家ぶりを発揮し ていた。数年後の1992年、ト ランプの浮気が原因で2人は離婚 するが(現在のメラニア夫人は3 人目)、イヴァナとの間に産まれ た娘がトランプ政権の補佐官を務 めるイヴァンカだ。今では自分を 批判するメディアを「フェイク・ ニュース」呼ばわりして罵倒する トランプだが、その時の彼は求め

 

に応じてヘリコプターを飛ばし、 私たちにヨットを空撮させるなど サービス精神も旺盛だった。

 

不思議な縁で繋がる2人

 

 ところで、この豪華ヨットの元 の名は「ナビラ号」。最初の所有 者はアドナン・カショギ。殺害さ れたジャマル・アファマド・カシ ョギは甥なのだ。昨年 81 歳で亡く なったアドナン・カショギは武器 商人として悪名を轟かせている。 アメリカを始め、その同盟国(日 本を含む)との武器取引に介在し て巨万の富を築いたのだ。その彼 が1980年に1億ドルをかけて

造らせたのがこの「ナビラ号」で ある。 89 年に資金難からブルネイ の国王に売却され、やがてトラン プの手に渡ったというわけだ。

 そもそもカショギ家は、サウジ アラビアを建国したアブドルアジ ズ・サウード国王(1876〜1 953)の主治医の血筋で、名家 中の名家なのだ。ちなみに、エジ プトの大富豪でイギリスの名門デ パート「ハロッズ」を買収し、1 997年にダイアナ妃とともに自 動車事故で死んだドディ・アルフ ァイドは、アドナン・カショギの 甥(妹の子)に当たる。

 アドナン・カショギの影響力は 東南アジアにも及んでいる。20

16年冬、当時の朴槿恵韓国大統 領の退陣を求める大規模な「ろう そくデモ」がソウルの大統領官邸 前で繰り広げられた。デモの要因 の1つは、武器取引をめぐるスキ ャンダルだった。朴槿恵を操り政 治に介入したとされる崔順実(チ ェ・スンシル)は、ロッキード・ マーチン社のロビイストであるリンダ・キムという元モデルと親しかった。このリンダ・キムは、70年代にアドナン・カショギに雇わ れて韓国の政財界や軍部に深く食 い込む先兵として活動していた。

 2016年の夏、朴槿恵大統領 は、中国との関係悪化を懸念した 政界や韓国軍部の反対を押し切って、THAAD(終末高高度防衛 ミサイル)配備を決定する。これ も崔順実を通じて大統領に影響力 を行使してきたリンダ・キムの働 きかけがあったと噂された。

 サウジアラビアは議会もなく、 公開の斬首刑も行われるなど民主 国家にほど遠い国だ。国や社会は 王族に牛耳られている。そんなサ ウジアラビア王族に近い家の出身 だからこそ、ジャマル・アファマ ド・カショギは「反骨のジャーナ リスト」となったのか?   それとも事件の背景には、さらなる深い闇が横たわっているのだろうか。

 つづく