月刊タイムス2018年12月号 鈴木邦男

連載/三島由紀夫と野村秋介の軌跡   第 143 回

「生誕百年祭」の思わぬ効果

 新たな議論の場を求めて右翼・民族派から左翼まで集う

●作家・評論家  

鈴木 邦男

 皆で真面目に、真剣に考えたことが、案外長続きしなくて、冗談半分に考えてやったことが案外 長続きしてるということが、よくある。僕の「生誕祭」もその代表だ。それも、 65 歳を過ぎてから この「生誕祭」は行われ、「四捨五入したら百歳だから」ということで、「鈴木邦男生誕百年祭」と して毎年行われている。冗談半分で始めたものだし、すぐにやめるだろうと思っていたが、まだ続 いている。阿佐ヶ谷ロフトを借り切って今年でもう十回近い。よくやってるものだと思う。でも編 集者の椎野礼仁さんを始め、実行委員の人たちが優秀なのだ。そして熱心だ。いろんな講師やゲス トを呼んで来てくれるし、ギャラも何とか工面してるようだ。今年は白井聡さん、蓮池透さん、初 沢亜利さん(写真家)など、今活躍してる人ばかりで僕も楽 しんだ。冗談から始まったが、成功したイベントだろう。 

 

【生前葬より「生誕祭」で議論の場を】

 10年前に考えた時は、真面目な 企画だった。「我々の発言の場を 獲保しよう」ということだった。 我々というと「右翼・民族派」と 思われるだろうが、この場合は左 の運動家も入っていた。赤軍派、 中核派、民族運動家、左のセクト も沢山ある。現役の人もいるし、

そこを卒業した人もいる。右も左 も。この世の中で「発言権」がな いし、マスコミには取り上げられ ないし、自分たちのメディアを作 ることもできない。だから、どこ かの場所を借りて、我々の発言の 場をつくろうというのだ。そのこ と自体には不思議はない。ただし、政治的色彩を表に出したら会場を 借りられないし、一般の人も集ま らない。これじゃマズイ、「じゃ、 一般の人が集まりやすいイベント をやろう!」となった。この場に は赤軍派議長の塩見孝也さんもい た。

 じゃ、こんな集まりはどうだろ う。勉強会がいい、読書会なんか どうだろう、という話もあった。

そこで塩見さんが言っ た。「政治性がない集 まりといったら、誕生 会なんかいいんじゃな いか」と言う。皆、あ っけにとられていた。 あの硬派な赤軍派の議 長からそんな言葉が出 るとは思わなかった。「小学生で もあるまいし、そんなこと、やっ てられるか」と皆、言っている。 塩見さんは続けてこう言った。 「鈴木なんかがいいんじゃない。 友達も多いようだし。それでさら に集まるよ」という。昔は大学が あったから、全共闘などに入り学 内で学生をオルグしていた。今は そんな場がない。だから、ともか く人が集まる場をつくろうとして いるのだ。大衆をアジる場にしよ うとしている。そんな目的がわか るから、「僕は嫌だ」と言った。「え っ、嫌なの。困ったな。じゃ、生 前葬はどうだ。あれをやろう。人 も金も集まるよ」と言っていた。

 実は、この少し前に塩見さんは 自分の生前葬をやったばかりだった。文京区大ホールだったと思う が、正面に慰霊の写真などを置き、 お寺のお坊さんも呼んで本当にお 経もあげてもらう。

 僕らも黒い礼服を着て行き、香 典も出した。涙ながらに「故人」 の思い出、活動歴を話す人もいた。 全く、「葬式」と同じだった。「死 んだ人」はいないし、棺にも入っ ていない。

 本当は、本人はお棺の中にいて、 じっと周りの話を聞こうというこ とになっていた。葬式の弔辞など を聞き、自分のことがどれだけほ

められるか、評価されるか、それ を聞こうとしているのかもしれな い。ただ、塩見さんは生前葬の時、 壇上にはいなかった。お棺の中に 入って何時間もいたら、息がつま っていやだという。それで別室で 控えていて、舞台の袖からノコノ コと出てきた。皆、ガッカリして いた。

 生前葬に出たのは、それ一回だ けだ。よく、あんなことをやる気 になったもんだと思った。なかに は「いや、生前葬をやると、かえ って寿命がのびるんだ」という人 もいる。そんなことでやるのか。 いや、それよりも、生きているう ちに自分の評判を聞きたいと思っ てやるのだろう。

 生きているうちに墓を建てると 寿命がのびる、という人もいる。 それだって本当かどうか。それに 塩見さんは去年、亡くなったが、 その時だって皆行って、「生前葬 に行ったからいいだろう」と言う 人はいない。あれは遊びだからと 皆内心思っているのだ。あの時香 典を出した人も、もう香典は出さ

なくてもいいだろう、などとは言 わない。

 ともかく生前葬に関しては余り いい思い出がない。だから言いに くい。「じゃ、鈴木君の生前葬を やろう!」と塩見さん。「準備は 全部こっちでやるよ」と言われ、 あわてて「やめて下さいよ」と塩 見さんに言って、仕方ない、生誕 祭をやりましょう。生前葬よりま しか、と思って承知したのだ。

 何でもいいから人を集め、政治 的な主張をし、アジテーションと いうのが塩見さんの目的だ。他の 人たちも渋々、賛同している。だ から、初めの何年間かは塩見流の

ものになった。赤軍派、連合赤軍、 よど号、北朝鮮、といった関係の 活動家ばかりが集まり、政治的な 話ばかりが続く。そして、「こう しよう!」という。鈴木邦男の生 誕祭だからなんて、意識してる人 は一人もいない。この機会をとら えて、少しでも自分自分を知って 同志を獲得しようという目論みだ。 「なんだ、赤軍派の集会だろう」 と抗議する人も少なからずいた。 「そこに利用されているだけなん て鈴木君アホだぞ」と言われた。 でも、この時から塩見さんが体調 を崩し、出てこれなくなった。そ して最近、亡くなった。

 

【事件の内幕を語り合い盛り上がる】

 中心人物の塩見さんが亡くなり、 今度はフリー編集者の椎野礼仁さ んが中心になってやった。他にも 若い実行委員を増やし「生誕祭」 もかなり様変わりした。僕も文化 放送などに出て、そこで、政治的 に関係のない芸人や、タレントな どにも会った。人脈がかなり広が った。そこで会った人たち何人かに生誕祭にも来てもらった。たと えば「ねづっち」などだ。彼は謎 かけをやって、大人気だった。そ の謎かけで、政治的なものもやっ てくれた。それも瞬間的に「答え」 を出すのだ。頭がいいと思った。

 たとえば、「よど号ハイジャッ ク」とかけましてというと、「カ ゼで寝ている病人」と解くという。

 「その心は」と聞くと「 38 度を超 えると危ないです」。「連合赤軍事 件のあさま山荘とかけて」「徹夜 で勉強する浪人と解きます」。そ の心は「夜を徹して行われました」

 そんな感じですぐに答えてくれ た。お客さんからのお題にも応じ ていた。どんなお題が出ても「整 いました!」と鮮やかにその場で 解くから、お客さんが帰るときに 「本当の芸を見せてもらいました !」と握手を求めていた。また、 松尾貴志さんたちも来てくれた。

 でも、メインになる人は、やは り運動関係にいた人が多い。左翼 の人、右翼の人、それに近い人た ちだ。そして、テレビでは言えな いことをバンバンと言う。それが よくて、だんだんそういう生誕祭 になった。最初は「俺たちの主張 を聞いてもらえる」などと意気込 んでいた塩見さんのような人たち も、そんなことは忘れて、一緒に 楽しんだのだ。蓮池透さんも参加 した。植垣康博さんなども来てく れた。また元兵庫県警の刑事の飛 松五男さんも来てくれた。みんな

とても面白いし、いいキャラクタ ーだ。植垣さんは捕まって 27 年間 も獄中にいた。全く反省していな い。連合赤軍というと、山に集ま ってからの陰惨なリンチや仲間争 いが中心になるが、山に登る前の 活動はかなり面白く、過激だ。武 器や資金集めなどとかなり危ない ことをやっている。それを明るく、 楽しそうに話す。一ヵ所で銀行強 盗をやるとバレるから、全国を回 りながらやった。アパートに寝泊 まりをして、襲う銀行を調査し、 金を強奪して、次の場所へ移るの だ。  ある時、仲間が銀行襲撃に出か けた時、一人の女性同志が追って きて叫んだ。「包丁を忘れてるよ !」と。「あちゃー、商売道具を 忘れちゃ」と皆で笑いあったとい う。こんな時でも冗談をいい、笑 いあうなんて大した余裕だ。

 そうだ、捕まってからの裁判の 時だ。強盗に使った包丁は犯行の 後、どう処分したかと裁判長に聞 かれた。証拠になるからと、逃げ る途中で捨てたと思ったのだ。皆、そう思っていた。ところが植垣さ んは言った。「もったいないから 台所で使ってました」。裁く側の 人たちも皆、ドッと笑ったという。 そりゃそうだろう。犯行に使った 兇器をまさかそのまま使ってたとは。

 植垣さんは 27 年間の獄中生活を 終え、今、静岡でスナックをやっている。僕も時々行っている。ある時、一緒にトークをやった。その時、ウイスキーに入れる氷を割っていた。アイスピックで氷を割っている。〝山〟でのことを思い出すはずだ。それで人を刺し、殺 したのだ。だが、平気で氷を割っている。「思い出しませんか」と 聞いたら、「全く思い出しません。 だって用途が違いますから」とい う。そりゃ確かにそうだが、そん な理詰で考えられるのか。こうで なくちゃ、活動はできないのかと 思った。

 生誕祭には植垣さんは毎年、来 てくれるし、人気がある。元兵庫 県警刑事飛松五男さんも、最近は 未解決事件や警察の関連を喋っている。驚いたが未解決事件の半分 以上は警察官の犯行だという。今の警察は数が多くて、それで慢心 している。半分に減らしたら、必 死になり、検挙率も上がる、とい う。たしかにそれはいえるかもし れない。

 最近、松山刑務所から脱走して、 広島まで逃げていた男もいたし、 警察から脱走して2カ月も捕まら なかった男さえいた。警察がだら しないと思われている。

 また、世田谷一家殺人事件のよ うに、犯人が捕まらない事件もあ る。八王子のスーパーでの殺人事 件もあった。こんな事件が起きる たびに、警察はひどい発表をする。「あんな残酷な事件を起こすなんて、きっと外国人だ」

 自分達の怠慢を棚に上げて外国 人のせいにしている。我々が悪い のではない、もう犯人は外国に逃 げてしまった。だから捕まらない のだと言ってる。

 そして今、国民の多くは不安を 持っている。いつ通り魔に襲われるか。いつ事件に巻き込まれるか。

 隣の人が犯人かもわからない。警 察によって犯人にされるかもわか らない。これに対してどうやって 自衛したらいいのか。

 そんなことを飛松さんに聞いた。 そうだグラビア・アイドルに来て もらったこともあった、と今思い 出した。

 生誕祭は午後1時から始まり5時までやった。かなり長かったが、 途中で帰る人はいない、終わって から途中の居酒屋で打ち上げをや った。あれ、そんなに人がいたん だと思うくらいの人が集まった。 そこで、「ここだけの話だが」と、 アブナイ話をする人もいる。端の 方でケンカする人もいる。そして 午後 11 時には解散した。

つづく